緒方恵美、少年役の“呪縛”に感謝 声優人生30年…恩人“呪術師”の言葉に使命感

芥見下々氏による人気漫画『呪術廻戦』を原作とするアニメシリーズの映画『劇場版 呪術廻戦 0』。ファン待望の劇場版で主人公・乙骨憂太(おっこつ・ゆうた)役を演じているのは、数々のキャラクターを演じてきた #緒方恵美 だ。繊細で葛藤しつつも戦いに挑む姿は、緒方ならではのテイストを十分堪能できる。声優人生30年を迎えた今、役者として大切にしていることや、自身の2021年を表す漢字1文字などを聞いてみた。

■乙骨は「繊細なキャラクター」 狭いストライクゾーン攻めた役作り

同作は原作漫画の前日譚である「呪術廻戦 0 東京都立呪術高等専門学校」を映画化したもの。キャストが発表された際は大きな反響を呼んだが、原作者・芥見氏の「中性的で、優しさがあった上で、大きな感情の振れ幅・落差もある」というイメージを基に、スタッフ満場一致で乙骨役が決定した。そんな乙骨役について、緒方は当初「“難しい”、“つかめない人”だと思っていました」話すが、なぜそう感じたのだろうか。

「とても面白くすてきな作品ですが、自分が乙骨憂太をやると考えたとき、人物の起点である『呪われていない彼の素はどういう人か』が、幼少時代の描写を除くとほぼ描かれていなかった」と切り出し、「最後の方では、夏油 傑に『女誑しめ』と言われるくらいの人になっています。そのようなことを言われる人は、素地が元々あったはず…。そこへ自然にいける人格の人はどういう人だったのか?と役作りで悩みました」と当時を振り返る。

この役に関してはすごく“狭いストライクゾーン”を攻めないといけないと思いましたが、アフレコ前に朴(性厚)監督や藤田(亜紀子)音響監督とキャラクター像を相談させていただき、ある程度絞るところまでは行けたのですが、絞りきるところまでは行けず、『とりあえず、やってみよう!』という形で乙骨を作り上げていきました。繊細なキャラクターでした」と説明する。

■16歳の乙骨「剥ぎ取る」役作り キャリアとともに増す“少年役”の難しさ

乙骨の魅力は、「ポンコツだけどやさしい。最初は自分の世界に入っちゃって自己中心的に見えなくはないですけど、単純に自分で閉じるというよりは、人のために閉じているところがある子」「結局のところ、優しさが原動力で、思いやりがある子だなと思います」と説明。そんな今回の乙骨役も含め、「悩んだ末に決意して戦うようなキャラクター」を演じる際、「大切にしているもの」は何だろうか。

声優人生30年を迎えた緒方に問うと「役の年齢や役の環境からまとっている姿、そういった要素に見合う状態まで、大人の自分が心にまとってきた“鎧”を剥ぎ取って、そこにいるだけ、という言い方になるでしょうか」と話す。

「みなさん、生きていく中で人を傷つけてしまったり怒らせてしまったりがあり、それを言わないようにしないようにして、自分の感情にいろんな形で年齢に応じた“フタ”というか“皮”を付けていく。中には、その時は必要でも今必要とは限らないものもあり、改めて取り払って考えるといったことをしないと、ガチガチに固まってしまう。等身大の自分としても、しなやかに生きるためには、自在にめくれると良いと思うわけですが……」と持論を展開。

その持論は今作において「例えば乙骨は16歳なので、16歳の時の自分に見合うくらいの物量の“皮”を取り去ります」と具体例を示し、「人格的に必要な部分は着けたまま、反対に無防備な部分があれば無防備に。必要なものだけを残し、その年齢にそぐうところまで落として、そういう自分としてそこに立っています。あとは芝居の中で、いろんな方が投げてくれるものに、その姿(キャラ)として反応するだけです」と役者としてのスタイルを語る。

「剥ぎ取っていく」という“引き算”の役作りは、キャリアや年齢を重ねるほど、自分よりも年齢が若いキャラクターを演じる際、段々と難しくなっていくことが予想できる。緒方自身も、「そうです。だからなかなかできないんですよ(笑)。心の微妙な反応とかは関係なしに、側だけを考えて“それっぽい芝居”はできるけど、繊細なキャラクターは瑞々しい反応がすごく大事。それが変な反応になると何かちょっと“おじさんの匂い”がするみたいな感じになってしまいますから(笑)」と冗談を交えつつ、この難しさは役者の醍醐味だと話してくれた。

■声優人生30年…少年役の“呪縛”に感謝と使命感

2022年は声優活動30周年を迎えた緒方。改めて役者・声優への向き合い方を聞くと、「幸いにも別作品の役で、2021年まで14歳でいなくてはいけない立場でした。繊細に動く14歳でいなければならないことをずっと課されていて、それこそ少年の“呪縛”が、“呪い”が私にかかっていた(笑)。“呪い”にかけられたまま2021年を迎えてしまったので、おかげさまで乙骨は何とかなったという状態です」笑いながら2021年を振り返る。

数多くの少年役を演じ続けてきた緒方だが、「若いころから、感覚的に削ぎ落とすことしか自分には役者としての価値はないと思っていましたし、役者として生きるには剥ぎ落とせることだけが自分の特技でした。それを失くしたらできなくなるだろうと直感的に思っていました」と若手時代に抱いていた心境を吐露。

しかし、30歳を迎えた辺りで「それに何の意味があるのだろうかと考えました。自分の実年齢のキャラなら何枚か落とす程度ですむけど、14歳まで戻ろうと思うと、ものすごくたくさん落とさなくちゃいけない。年齢を重ねれば重ねるほど落とす量も増え、『やり続けることは必要なのか』と思いました」と悩んだ時期もあったという。

原因は少年の目線を持ち続けるために感じてしまう、ある種の苦痛。「例えばニュースで悲惨な事件を見たとき、14歳の自分が見たらどう思うだろう?と想像することをやっているのですが、そのぐらいの年齢は大人の世界を理解はできるけど、ハートはまだ子ども。そこが無防備だから傷つく…。その目線で見ると自分も傷つかなきゃならないので、それが苦しくて…。若手の役者が出てくるわけだし、自分は必要ないと思っていたのです」

それでも「これを止めたら自分が役者でいる価値や意味はない。声優になりたい人が増えている状況で、『需要はないのでは』と話しかける自分もいて葛藤があったけど、捨てる作業もやらなければいけないと思い、ずっとそういう目線で対応していました」と信念を曲げなかったことを明かす。

そんな時、別作品において #庵野秀明 監督から「君が14歳の心をずっと忘れずにいてくれたおかげで作品が作れた。14歳のハートを持ってくれていてありがとう」という言葉をかけられ、「このためにこうしていたと思えた」と感謝する。ところがその後の作品で、庵野監督から「君は孤独だった。ずっと1人で14歳でいたから。その自分の孤独を(役に)投影してほしい」と依頼されたという。

続けて、「庵野さんの言葉で 14歳でいなくてはならぬという使命感に駆られてしまい、うっかり2021年まで来てしまいました(笑)。おかげでキープはできたし、この作品のために、このキャラクターに“会う”ために少年のままでいたのだ、という感じです」。これまで演じてきた少年役を糧に乙骨と向き合ったと話した。

最後に2021年を表す漢字1文字を質問すると、間髪を入れず「『呪』になってしまいますね」としみじみ。「“呪い”のおかげでやってこられて、そして年末も“呪われている”(笑)。結局この仕事をするということ自体が、ある種の“呪い”にかけられたようなものなのかもしれません。年末の1文字にしてはちょっとひどいけど、14歳、16歳に縛られ続けてきた“呪い”のおかげで生きてこられました(笑)」と充実した役者人生を振り返った。

取材・文:遠藤政樹/編集・撮影:櫻井偉明

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