フィクションを凌駕する「藤井三冠」という現実──ラノベ『りゅうおうのおしごと!』作者が語る“藤井VS豊島”叡王戦

文/白鳥士郎

「現実に、負けるな。」

これは私が書いたライトノベル『りゅうおうのおしごと!』13巻の、帯に書いたキャッチコピーです。私が考えました。
その下には、編集者が考えた『いま一番、現実に追い抜かれそうな将棋ラノベ最新刊!』という一文が小さく入っています。煽られてる……。

13巻の発売は、2020年8月15日。
ちょうど #藤井聡太 棋聖が誕生した1ヶ月後であり、さらに王位も獲得して二冠になるかどうかというところでした(8月20日に藤井二冠が誕生します)。

『りゅうおうのおしごと!』の主人公は史上最年少で竜王を獲得した設定で、けれどまだ二冠目に挑戦中だったため、藤井二冠が誕生すれば現実に追い抜かれてしまう——そんな、フィクションと現実がチキンレースをするような(?)状況を表現したこの帯は、ネット上で大いにバズりました。本の売り上げに繋がったかは微妙なところですが……。

もともと、十代の少年がいきなり将棋界最高のタイトル『竜王』を獲得するという設定は「あまりにも将棋をナメてる」「現実感がない」と叩かれていたのですが、藤井聡太という天才の出現によって、逆に「現実よりもショボい」と批判されるようになっていたのです。まさに事実は小説より奇なり、ですね。

その後、14巻で主人公を二冠にしたことで安心した私は、15巻では主人公のタイトルを増やさないことにしました。
「さすがに新刊を出すたびに主人公のタイトルが増えていったら物語に起伏がなさ過ぎるもんな〜」くらいに思っていました。
しかしそのあいだも天才は歩みを止めなかったのです。
そして2021年9月13日。
それまで対戦成績で圧倒されていた #豊島将之 叡王とのダブルタイトル戦を、王位防衛・叡王奪取という最高の結果で締めくくり、藤井聡太三冠が誕生したのでした。
#羽生善治 九段の持つ記録を28年ぶりに塗り替えて、史上初の十代の三冠が……。
『りゅうおうのおしごと!』15巻が配信される、実に6時間前のことです。どうしてこのタイミングなの……。

幸運なことに私は、藤井三冠にインタビューさせていただいたことがあります。当時はまだタイトル獲得前の七段で、顔にも幼さがありました。
「詰将棋を解くときに頭の中に脳内将棋盤を思い浮かべない」
という、衝撃の発言が印象に残っています。めちゃめちゃビックリした……。

・なぜ藤井聡太はフィクションを超えたのか?【叡王戦24棋士 白鳥士郎 特別インタビュー vol.01】

また、今回のダブルタイトル戦の相手となった、豊島将之竜王にも、タイトル戦の始まる直前にインタビューさせていただいていました。
その壮絶なお話に圧倒されると共に、豊島竜王も藤井三冠も、お互いを強く意識しているのだなと感じました。

・なぜ豊島将之は藤井聡太に6連勝したのか?【流れゆく水のように 豊島将之竜王・叡王インタビュー 第1章】

正直に申し上げれば、私は今回、藤井三冠が誕生する可能性はそれほど大きくはないと思っていました。
タイトル戦が始まるまでの対戦成績で、藤井三冠が1勝6敗と押されていたというのが一つ。
もう一つは、棋聖・王位・叡王と3つのタイトル戦を連続して戦うことは、いかに藤井三冠が天才といえども、体力的な問題や研究時間の不足等で厳しいのではないかと考えたからです。
あの羽生善治九段ですら、初タイトルの竜王を、翌年失冠しているのです。
それほどに防衛戦というのは難しいとされますし、それが相性の悪い相手であれば、王位戦か叡王戦のどちらかで敗れるのではないか? そう分析したのです。
結果は、ラノベ作家の想像など軽やかに飛び越えていったわけですが……。

藤井三冠が王位防衛を果たした直後の記者会見で放った名言があります。

「記録に興味を示さない」
「内容を求めていく」
これは本心でしょう。戦いぶりを見ればそれは伝わってきます。
印象的だったのは、三冠獲得を決めた、叡王戦第五局の最終盤。
先に一分将棋に追い込まれた豊島竜王に対し、藤井三冠は普段は見せないノータイム指しを連発します。
まるで相手のミスを誘おうと、時間責めをするかのように。
叡王戦はタイトル戦では珍しく、チェスクロック方式で時間を計測するため、自分の持ち時間を減らさないために早く指したという面もあるでしょうが、解説をしていた深浦九段と高見七段ですら「藤井さんのこういう指し方は、あまり見ない」と思わず口にするほどでした。
そして、衝撃の9七桂。
誰もが5五角を読んでいた局面で、それまでずっと動かなかった桂馬を、よりによって将棋盤の端に向かって跳ねさせる衝撃の一手。
将棋ソフトは、その手をあまり評価しませんでした。
しかし人間の意表を突いたその一手によって、豊島竜王は対応を誤り、敗れたのです。
そこまで続けたノータイム指しすらも伏線に思える、人間と人間の勝負を見て、胸が熱くなりました。
史上最年少三冠という記録には、まったくこだわっていない。
けれど豊島将之という棋士に勝つことに対しては、相当なこだわりを見せた。あの将棋を見て、私はそう感じました。

この9七桂に関しては、私のツイッターのリプライに『スラムダンクの陵南戦で小暮がシュート決めたみたいな感じ』と書いてくれた人がいました。
まさにそんな感じです。桂馬はずっと動かなかったけど、あいつだって頑張ってきたんだ……。

よく誤解されるのですが、私は将棋、ぜんぜん弱いです。偉そうに解説なんてできる力はありません。
それでも、藤井三冠の将棋は、とても強く私の心を揺さぶります。
素晴らしい文章を読んだときと同じように、「自分もこんな話を書いてみたい!」と、居ても立ってもいられなくなる気持ち……それを将棋というボードゲームで表現してしまうのです!
「藤井聡太のストーリーを漫画化したら、設定の段階で編集者から止められる」
よくそう言われます。私もそう思います。
でも同時に、藤井三冠の指す将棋はどんな名作よりもドラマチックだと、私は思います。

藤井三冠は、10月からいよいよ『竜王』のタイトルにも挑戦します。
相手は豊島将之竜王。今年に入って3度目のタイトル戦となります。同じ相手と1年でタイトル戦19番勝負なんてフィクションでも(以下略)。

……ところで、今年に入ってからの藤井三冠の強さの秘密に『ディープラーニング系の将棋ソフト』があると、将棋ファンのあいだで話題になっています。
藤井三冠に棋聖戦で敗れた #渡辺明 名人も導入したことが記事になっていました。また、水面下では、他の棋士たちもディープラーニング系の将棋ソフトを研究に取り入れ始めています。
それによって、藤井三冠の優位が揺らぐのではないか? そんな考えを抱く人もいるでしょう。

しかし私はそうは考えていません。
詳しくは、近日このニコニコニュースで公開予定の、ディープラーニング系の将棋ソフトを開発した方々へインタビューした記事をお読みいただきたいと思うのですが……。

確かに藤井三冠は、棋士の中でいち早くディープラーニング系の将棋ソフトを取り入れて、研究に活用しています。本人がインタビューでそう語っていますし、開発者の方々は指し手からそのことに気付いていました。

同時に、かなり驚いていました。
ディープラーニング系の将棋ソフトは、設定等の導入が従来のソフトより格段に難しく、さらにマシンも改造する必要があるからです。開発者の力を借りず、それらを独力で行ったことに、驚いたのです。
しかも藤井三冠がディープラーニング系のソフトを導入した時期は、まだ従来のソフトを完全に凌駕したか微妙な時期でもありました(今でも完全に凌駕したわけではありません)。
単に強さや効率を求めるだけであれば、そんな面倒なことをするでしょうか? 事実、藤井三冠以外の棋士は、それをしなかったのです。

たぶん藤井三冠は、新しいソフトの出現に興味を抑えきれず、それに触れてみたくなってしまったのではないでしょうか。
だから「藤井三冠も使ってるから」という理由だけで手を出すと、逆に自分から転んでしまいかねないのでは……そんな感じがしています。

ま、いつも予想が外れるラノベ作家の妄想に過ぎないのかもしれませんが!

(了)

そんな白鳥先生が描く『りゅうおうのおしごと!』の最新刊(15巻)は、9月14日より電子書籍ストアで配信中。

しかも今回は、今までで電子書籍化されなかった特装版も配信中です! 特捜版には白鳥先生の書き下ろし短編が収録されています。どうやら、銀子と八一の激甘バカップルぶりを存分に味わえる内容になっているとのこと。

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歴史に残る竜王戦が始まる前に『りゅうおうのおしごと!』を読んで、気持ちを高めていこう!!

現実に負けるな! 八一がんばれ!!

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#叡王戦 #白鳥 #ライトノベル #キャッチコピー #編集者


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