ラブコメ漫画で「ヒロイン平等に描く」苦悩 マガジン作家心痛“負けヒロイン”への思い【瀬尾公治×内藤マーシー】

漫画『涼風』『君のいる町』『風夏』などで知られる瀬尾公治氏の新連載『女神のカフェテラス』と、『五等分の花嫁』のアシスタントを務めていた新人作家・内藤マーシー氏の新連載『甘神さんちの縁結び』が、今春より『週刊少年マガジン』(講談社)で連載されている。ラブコメ作品のヒットが続く同誌の中で“ハーレム作品”の連載を始めた両作者にインタビューを実施し、制作秘話などを聞いてみた。

2月よりスタートした『女神のカフェテラス』は、喫茶店を舞台に、男の子と運命の女の子5人との共同生活を描いたシーサイドラブコメ。東大現役合格の秀才・粕壁隼は、ケンカ別れしていた祖母の訃報を聞いて、3年ぶりに海辺の町の古びた実家「カフェテラス・ファミリア」に帰ると、そこには見知らぬ5人の女の子が住んでいて共同生活をすることになるストーリー。登場するヒロイン5人は、全員“正ヒロイン”で、連載初回からヒロインの人気投票を実施するなど話題を呼んだ。

一方、4月よりスタートした『甘神さんちの縁結び』は、受験生の男主人公と神社の三姉妹によるラブコメディー。京都の神社に居候することになった主人公は、神社に到着するとラッキースケベに遭遇し、三姉妹と新生活が始まる物語。昨年12月に掲載された読切が、読者アンケート速報で好評だったため連載化となった。

■展開読める“三角関係”脱却の思い

——お二人とも互いの作品を熟読したそうですが、読んだ感想を教えてください。

【瀬尾】最近の新人さんは絵がうまいと思いました。僕が若いころなんて、それは酷いものでしたから(苦笑)。年々、新人作家さんの画力や内容の切り口などレベルが上がっているような気がします。なので、内藤先生の読切を読んだ時、これは連載化するだろうなと思ったので、僕の新連載のスタート時期を早くしないといけないと焦りました。ジャンルもラブコメとかぶっており、現在の『マガジン』においてもラブコメ作品が多いので、「これ以上、埋もれてはいけない!」と思いました。「戦場」である雑誌で連載するので、常に危機感を持っております。

『甘神さんちの縁結び』を読んだ時、「すべて勝ちにきているな」と思いました。巫女、性格も違うヒロイン3人…などなど、嫌われる要素がない設定ばかりで、最後まで読みやすい内容でした。

【内藤】べた褒めしていただき光栄です…。『女神のカフェテラス』を読んだ時、まず、前作の『ヒットマン』最終回とあわせて連載をスタートさせたことに、漫画家として「すごすぎる」と思いました。第1話も75ページとしっかりと仕上げていて、ヒロイン3人描くだけでも私は大変なのに5人もいきなり登場させるなど、完成度の高さに驚きました。

——2人の作品の共通点はヒロインを第1話から複数登場させるハーレム要素だと思います。作品を描くまでに至った経緯を教えてください。

【瀬尾】前作『ヒットマン』はマガジン編集部を題材にしていたので、おじさんたちを描く機会が多く、メンタルがつらくなりました(笑)。なので新連載は、女の子をたくさん登場させてハーレム感を出したいという思いがありました。いきなり全員出して読者に「好きな子を選んでください」という選択肢を与えることに面白さを感じて、第1話で人気キャラ投票も実施できて満足です。ただ、後悔しているのは、全員正ヒロインなので、全員平等に描かないといけないというところです。カラーイラストは同じ大きさ、同じバランスで5人全員描くという、差が生まれないように気遣う労力が大変です。今になって『ネギま!?』 #赤松健 先生、『五等分の花嫁』春場ねぎ先生の苦労を理解しました(笑)。

僕が今まで描いてきた作品は、ヒロインたちをいきなり全員出すハーレム作品ではなく、正ヒロインがいる中で徐々に違うヒロインが登場していく、主人公との三角関係を描いてきました。描いていて楽しいのですが、段々、「読者も自分もこれからの展開が予想できるな」と思い三角関係を描くことに少し飽きてきたので、今回、ハーレム作品に挑戦した経緯があります。「2番目に登場する子が不遇」「この子、絶対フラれる」など、展開を想像しながら読む読者の方々を裏切りたい、驚かせたい思いがありました。なので、今のところ主人公が誰と結ばれるかは決まっておらず、なんなら、これから新たなヒロインが5人登場するかも知れないです(笑)。読者の方々の感想や反応を楽しみながら新人気分で描いています。

——『マガジン』はラブコメ漫画の掲載が多い漫画誌として知られています。近年は『五等分の花嫁』、『彼女、お借りします』、『カッコウの許嫁』、『カノジョも彼女』、『男子高校生を養いたいお姉さんの話』、『それでも歩は寄せてくる』などヒット作が多く、ラブコメ戦国時代の中で、内藤さんは新人としてラブコメを描くことに不安はなかったですか?

【内藤】もちろん、怖かったです(笑)! ただ、担当編集の方に「内藤先生は新人作家で初連載。切り口からすると見慣れた作品になるかも知れないけど、内藤作品としては新鮮なものになるので、周囲の声は気にせず王道を描きましょう!」と言われたことで救われました。そして、読切が読者から好評だったことで連載化となり、今は安堵しております。

■ラブコメ作品の評価「主人公次第で決まる」 ヒロイン輝かす立ち位置の重要さ

——ラブコメ作品の場合、ヒロインに注目しがちですが、男主人公がとても重要な立ち位置だと考えております。ヒロインを輝かせる存在として、描く上で大切にしていることはありますか?

【瀬尾】主人公次第で作品の善し悪しが決まると思っています。今回はヒロインが5人登場するので、その5人の圧に負けないキャラクターにするため、メンタルが強い男の子にしました。今までに描いたことのないような少しひねくれた主人公となり、実はヒロインたちと同じくらい設定に力を入れました。主人公が魅力的でないと、ヒロインが輝かないですし、主人公は読者目線で行動するので、その行動理由に読者が共感できないといけないですから、実はヒロインを描くよりも労力を使います(笑)。読んでいる方に「この主人公に共感できない」と思われてしまうと作品を読んでいただけないですし、ラブコメ作品はかわいい、キレイなヒロインだけでは成り立たないと思っています。

【内藤】瀬尾先生と同じく、主人公はまず、ヒロインと正反対の性格にして、対立させていく設定にしました。ヒロインは巫女さんで「神様を信じる」ので、主人公は「神様を信じない」ようにし、「神様を信じない」キャラは自信家、他人に頼らない、勉強家など…そのようにして作り上げていきました。

【瀬尾】ラブコメ連載の怖いのが、「こいつ(主人公)、この性格・行動でヒロインたちと恋愛していくのかな?」と思ったりします(笑)。あまりにも正反対な設定にしてしまうと、先ほど述べた通り行動理由に読者が納得できなくなり、自分でも恋愛しているイメージがわかなくなります。主人公が嫌われると物語が崩壊すると言っても過言ではない。…『君のいる町』の主人公は随分嫌われましたけど、その分、読者の方々はヒロインを擁護してくれました(笑)。今作の主人公は反応を見る限り多くの方が好いてくれているようなので安心しています。

■ラブコメ永遠の問題“負けヒロイン”の存在 作家側も心痛も描く狙い

——ラブコメである以上、主人公と1人のヒロインが結ばれる…という展開が今後想像できます。そうなるとハーレム作品を描いていると、いわゆる“負けヒロイン”が出てしまいますが、その辺りは作家として心苦しい部分ではありませんか。

【瀬尾】今回はその悲しさはないかなと思います。平等に描くので、仮に主人公と1人のヒロインが結ばれても、残されたヒロインたち全員が幸せになれるよう描くつもりです。過去の作品では、どう頑張ってもフラれてしまうヒロインを描いていたので、作者としても「かわいそうだな」と思ってました。今思うと、不幸にさせることを楽しんでいたのかもしれません(苦笑)。そうすることで、正ヒロインと明暗がはっきりするので、キャラに個性が出る。なにより、読んでくれている人の感情を動かしたいという思いが強かったのです。

ですが、ある意味で読者にとって嫌なやり方で感情を動かすことに、段々と心苦しくなってきたこともあって、今回、ハーレムという新しいジャンルに挑戦しようと思いました。作家人生20年以上経過してようやく考え方が丸くなったのかも知れませんね(笑)。

【内藤】私も3人それぞれ幸せに歩む構想は今のところあります。瀬尾先生に限らずですが、連載を終えてすぐに新連載を始めるというエネルギーは本当に驚きます。キャラクター、ストーリーも新たに考えなくてはいけないですし、すごく大変だと思うのですが…。

【瀬尾】編集部や読者から支持されているうちが作家として華ですので、求められている限りは死ぬまで描きたいです! 今回も編集長から「最終回と新連載を同時に掲載するなら表紙をご用意します」と言われて頑張りました(笑)。『五等分の花嫁』の連載が終了し、読者も“複数ヒロインが出るラブコメ”を欲しているとも感じていたので、今回、ヒロイン5人描いたという部分も少なからずあります。僕のこれまでの作品で、一番読者の思いを考えた作品になったと思います。ラブコメ作品はやはり、読者の方も作家もみんな含めて明るくなれることが一番大切です!

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ラブコメ漫画で「ヒロイン平等に描く」苦悩 マガジン作家心痛“負けヒロイン”への思い【瀬尾公治×内藤マーシー】