極めた「おじさん役」 元タカラジェンヌ天真さんがエッセー出版

「女装する髭(ひげ)モジャの医者」「角刈りにねじりハチマキの車引き」——。華やかな宝塚歌劇にあって、癖の強いおじさん役を極めた名バイプレーヤー・天真(てんま)みちるさんが、エッセー「こう見えて元タカラジェンヌです」(左右社)を出版した。脇役だったからこそ書ける等身大のエピソードが満載。懸命に生きているのはスポットライトが当たる人だけではない。そんな当たり前のことに気付かせてくれる1冊だ。

天真さんは2004年、2度目の受験で宝塚音楽学校に合格。06年に初舞台を踏んだ。同期には、宙(そら)組トップスター・真風涼帆(まかぜ・すずほ)や月組男役スターの鳳月杏(ほうづき・あん)、OGに花組元トップ娘役の蘭乃はならがいる。「たそ」の愛称で知られ、花組の男役として数多くの「おじさん役」で印象を残した。18年に退団後は、舞台などの脚本・演出を手がけながら、ディナーショーにも出演。華麗なタンバリン芸でも注目を集め、在団中に舞台やテレビ番組で披露したこともある。

最初はトップスターを目指し

著書はインターネットマガジンの連載をまとめたもので、宝塚を目指すきっかけから、退団までをテンポ良く記した。「他の人と同じく、最初はトップスターを目指していた」という天真さん。挫折と成長を重ねるうちに、脇役に魅力を感じ、「おじさん役」を極める過程が、ユーモアを交えてつづられている。

トップスターの偉大さを目の当たりにし、さまざまな人や作品との出合いに影響を受けた日々。憧れのスターへのときめきや、周りと自分を比べて落ち込む気持ち、失敗談も飾らずに書いてある。「真ん中(トップ)を目指す人たちの志の高さを知り、自分は違う道で頑張ろうと思った。悔しさではなく『それぞれの目指す道があるんだ』と。そして、やってみれば楽しかった」と振り返る。

とはいえ、うら若き女性が「おじさん役」を演じる努力は並大抵ではない。先輩のアドバイスを受けながら、かつらやひげ、顔色などを工夫。モヒカン刈りにして警察官の職務質問を受けたり、高齢の右大臣を演じるため常に半目を開いたり。おかしくもひたむきに役に向き合う姿が浮かび上がる。

忘れられない出来事も記されている。東京公演を控えた11年3月、東日本大震災が発生。多くの人が苦しむ中、豪華絢爛(けんらん)な舞台を上演してよいのかと悩み、仲間たちと話し合いを重ねた。上演すると決めても不安は消えなかった。それを吹き飛ばしたのは、幕が開いた時のはち切れんばかりの拍手。「観劇を心の支えに生きている方がいる」「その方々の為に身を捧げよう」との言葉に、舞台人としての使命感がにじむ。困難な状況でエンターテインメントの底力を感じたエピソードは、新型コロナウイルス禍の今と重なる。

観客を楽しませたいという気持ちは、主役も脇役も同じ。そして主役だけでは舞台は成り立たない。「椅子取りゲームで端の席に座らざるを得なかっただけかもしれないけど、そこでどうするかは自分次第」と話す天真さん。宝塚ファンでなくとも、仕事や進路で悩んでいる時に読めば、元気をもらえそうだ。

1700円(税別)。全国の書店などで販売中。【水津聡子】

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