相手に思う過去の人がいても…「めぞん一刻」五代裕作から学ぶ「過去を受け入れる」ということ

人の過去を受け入れる。頭では分かっていても、心では拒絶してしまうことが多々あり、 #高橋留美子 原作「めぞん一刻」の五代裕作も、当初は同じだった。


1980年11月のビッグコミックスピリッツ創刊から1987年まで連載され、1986年から1988年の2年間では全96回に渡ってアニメ化もされた本作は、五代が下宿するアパート「一刻館」に新しい管理人として音無響子が来訪するところから物語が始まる。

一の瀬花枝、四谷、六本木朱美といった個性極まる住人たちが自身の部屋で宴会を繰り返することに嫌気がさした浪人生の五代は、このままでは人生がダメになると、引っ越しを決意する。管理人にその旨を伝えに行こうとしたものの、そのタイミングで現れた響子にひとめ惚れした五代はあっさりと撤回。以降、響子へのアプローチを繰り返す。

管理人としての責任か、あるいはうっすらと芽生え始めた恋心か。響子のサポートもあって晴れて大学に合格した五代は、腰を痛めた大家を連れ添う形で響子と共に墓参りへと出かけ、そこで響子が未亡人であることを知る。大家の息子で夫の惣一郎は、響子が嫁いでわずか半年で他界。単行本第1巻第7話「春のワサビ」()では、その事実に愕然とした五代は響子との帰り道、「生きていれば—いろいろな欠点も見えてくるだろう」「けれど、死んでしまった人は無敵だ」「それもたった半年の暮らしじゃ、思い出は彼女の中で理想像になってどんどん広がって…」と苦悩する。

思い出は美化されるものである。それが愛する人であればなおさらで、その後も響子は、亡き夫と同じ名の飼い犬が焼き鳥の匂いにつられて姿を消した際に惣一郎の死を思い出して涙するなど過去から離れられずにいたし、作中では惣一郎の顔が一貫して明かされないことも、より五代を苦しめる。五代は見えぬ相手にひたすらもがき、ファンもあらゆる想像をしたものだが、響子は五代や住人たちと関わる中、単行本第8巻第4話「春の墓」()では、墓石の前で「生きてさえいてくれたら…」「こんな思いしなくてすんだわ……」としながらも「自然に忘れる時が来ても…許してください」と語るなど、徐々に気持ちは前進。五代と響子は幾度のすれ違いがありながらも、気持ちを深めていく。

物語終盤、五代の恋敵・三鷹瞬に響子が断りを入れ、五代とふんわりした関係だった七尾こずえが同僚との求婚を受け入れたことで、2人は急進展する。目標だった保育士に合格した五代は天然でにぶい響子に紆余曲折ありながらもプロポーズし、2人で故郷へ。響子は五代の祖母から形見の指輪をプレゼントされて感極まるものの、ほどなくして再び、亡き夫の影が現れる。一刻館で荷物を整理する中、惣一郎との思い出の品が出てくるのである。

押入れにあった、亡き夫との結婚写真と形見。初めて惣一郎の顔を見た五代は「やさしそうな人ですね」と笑顔を見せるものの、「ごめんなさい」とうつむいた響子は、一人になると管理人室で形見を握りしめながら涙を流す。これを目撃してしまった五代は「明日にでも音無のお義父さまにお返しして来ます」「ケジメをつけなくちゃ、ね」と強がる響子に思い悩み、その夜、四谷に「どうしました五代君、元気ありませんね」「今からこれでは、先が思いやられますな」とイジられると、「してないちゅーに」と感情を露わにする。

天井を眺めながら「これから先…か…」とつぶやく五代。場合によってはこのまま思いが覚めてしまう可能性もある状況だが、ここからが五代の素晴らしき人間性の本領発揮である。その翌日、惣一郎の墓で手を合わせた五代は、「正直言って、あなたがねたましいです…」と墓石に語りかけた後、そのまま惣一郎へ今の思いを吐露。単行本第15巻9話「桜の下で」()で描かれた、ファンには名シーンとして心に刻み込まれている場面である。

五代は、遺品を返す報告をすべく訪れた響子が陰にいることを知らずに「遺品返したところで響子さん…絶対にあなたのことを忘れないと思う」と本音をぶつけると、「あなたはもう響子さんの心の一部なんだ…」とも。ひとり響子が申し訳なさそうな表情を見せる中、続けて五代は「初めて会った時から響子さんの中にあなたがいて…そんな響子さんをおれは好きになった」と告げ、「あなたもひっくるめて、響子さんをもらいます」と報告する。

響子の心には常に惣一郎が存在し、そんな響子に五代は惚れた。先述の通り、ひとめ惚れであるから性格は後付けとはいえるものの、惣一郎の存在がなければ、今の響子は形成されない。その響子と結婚するということは、惣一郎の存在を認めることと同義なのである。簡単そうで難しい、五代の決断。SNSの普及で表面上の付き合いが増えた昨今、名作「めぞん一刻」を見返すことで、「過去を受け入れる大切さ」を今一度、学び直したいものである。
(C)高橋留美子/小学館

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