「社会生活に必要」緊急事態でも客を入れた寄席に行ってみた

寄席は社会生活の維持に必要なもの−−。東京寄席組合と落語協会、落語芸術協会は24日、「鈴本演芸場」「新宿末広亭」「浅草演芸ホール」「池袋演芸場」を定員を減らして有観客で営業することを決めた。緊急事態宣言下でも客を入れ続けると決めた寄席は、今どうなっているのか。新宿3丁目の末広亭へ向かった。【中嶋真希/デジタル報道センター】

「明日からの興行ですが、関係各所とも協議した結果、感染対策を維持しつつ興行を行う事と致しました。昔からの伝統芸能で今も尚、途絶えずに伝わっていると言う事は、社会生活の維持に必要なものであると解釈しております」

新宿末広亭が24日午後、公式ツイッターでこうつぶやいた。記者はこれまで何度も寄席に行ったことがあったが、新型コロナウイルスの感染拡大後は、すっかり足が遠のいていた。「社会生活の維持に必要なもの」と聞いて、はっとした。こんな時だからこそ、笑いが必要なのではないか。26日の午後、約1年半ぶりに、新宿3丁目にある末広亭へ向かった。

昼間とはいえ、新宿3丁目の飲み屋街は静かだった。「休業します」という張り紙とともにシャッターが下ろされた店が目立つ。そんな中、末広亭の入り口には、この日のトリの名前が書かれた色とりどりの「寄席のぼり」が風になびいていた。末広亭は1897年に創業し、現在の建物は1946年に建てられた。都内で唯一の木造建築の寄席だ。

木戸銭は、一般3000円。客数が半分になっても据え置きだ。入り口で手を消毒したら、検温がある。演者も客も、熱が37.5度以上あると入れない。

中に入ると、中央の椅子席は左右1席ずつ空けて案内されていた。「椅子はお客さんが帰るたびに消毒しています。左右の桟敷席もそれぞれ20人までに規制して、座布団を消毒しています。左右の窓を開け、休憩時間には入り口のドアも開けて換気もしています」と、支配人の杉田京次朗さん(68)は言う。

末広亭の定員は325席。コロナ前は立ち見が出るほどのにぎわいだったが、昨年3月に感染拡大が始まってから、1日に来る客は50人程度まで減った。25日から定員を客席の50%に制限して営業を始めたものの、定員の半数に達する日はない。緊急事態でも「営業宣言」をした影響か、この日は昼の部が終わった午後4時過ぎでいつもより多い70人の客が入っていた。コロナ前と比べれば「ガラガラ」だが、杉田さんは、「いつもの月曜より多いね」と話していた。

軽食や菓子を食べたりしながら一日中寄席を見るのがコロナ前の楽しみだったが、この1年は場内での食事は禁止で、飲み物はソフトドリンクのみ。入り口の横にある小さな椅子に座って軽食をつまむのは許可されていて、休憩時間になると、おなかをすかせた客が外に出て、サンドイッチを食べていた。

“厳戒態勢”だが、出演者も客も、リラックスした雰囲気は以前の寄席のままだ。この日は、今最も勢いのある落語家の春風亭一之輔さんや、トリの初音家左橋さんが舞台の上に置かれたアクリル板越しに笑わせてくる。一之輔さんが、「こんな時に寄席に来るなんて、よほどみなさん、止めてくれる家族もいないのか」と落語ならではのシャレを言うと、会場が沸いた。マスクを着けているため、コロナ前のように大きな笑い声で応えることはできないが、小さく笑うだけでも気持ちがすっきりした。

昼の部が終わり、入り口の外にいた杉田さんに話を聞くと、「昨日は、『開けてくれてうれしい』とお客さんに言ってもらいました。芸人さんも(客が入ることを)喜んでくれました」と言う。「うちに来てくださるお客さんはマナーを守ってくれる」と杉田さんが言う通り、どの客もマスクを着用してしっかり感染対策をとっていた。

寄席を見終えて、記者は、「こんな時だからこそ、笑うって気持ちがいいですね」と率直な感想を伝えた。「私たちもそう思っているんですよ」と杉田さん。「笑うことは、必要だと思っているし、営業する意味を感じています」とその決意の固さをにじませていた。

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