「戦時中でも赤字でも」 緊急事態宣言下で寄席を開けるワケ

3回目となる緊急事態宣言が25日から4都府県に発令され、デパートや映画館、酒を提供する飲食店などには休業要請、プロ野球や劇場には無観客開催の要請が始まった。だが東京都内の寄席4軒は、観客を減らした上で営業を続ける判断をした。ネット上では賛意や理解を示す意見が多数を占める。なぜ寄席は木戸を開ける決断をしたのか。【油井雅和/デジタル報道センター】

都内には落語の定席(1年中営業)として上野・鈴本演芸場、新宿・末広亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場の寄席4軒があり、他に国立演芸場が半蔵門にある。また、浅草には浪曲の寄席、木馬亭がある。国立演芸場は要請を受けて主催公演の中止を決めたが、定席4軒と木馬亭の浪曲公演は継続を決めた。

定席は鈴本演芸場は落語協会(柳亭市馬会長)の芸人が、後の3軒は落語協会と落語芸術協会( #春風亭昇太 会長)の芸人が出演し、一部の寄席では立川流、五代目円楽一門会の落語家も出演する。

寄席4軒と落語協会、落語芸術協会が共同で行った24日の発表によると、営業を続ける理由は「大衆娯楽である寄席は社会生活の維持に必要なものだ」と判断したためだ。もちろん、検温、消毒、換気の徹底、終演時間の繰り上げ、観客の定員を減らすなどの措置は続ける。

寄席は「いつでも開いている。ぶらっと立ち寄って楽しめる」のが魅力とされる。だが昨年からの2回の緊急事態宣言で、寄席も休業や時間短縮を余儀なくされた。ある寄席の関係者は「落語ブームなどと言われて盛況が続いていたのに、コロナでつばなれしない日も出てきた」と話す。つばなれとは、数字の数え方が一つ、二つ、三つ……、九つと、9まで「つ」が付くことから、客の入りが悪くても10人以上、という意味。しかしついに、客が1ケタの日も出てきたということだ。

寄席も芸人も経済的に追い詰められ、将来への不安は高まっている。できる「企業努力」はすべて手を付け、この先に打つ手立てが見つからないのが実情だ。貯金を使い果たし、妻や家族に頼る芸人もいる。出番が減ったことから、「以前のように落語のネタがスラスラ出てこなくなった」というベテランもいる。

無観客によるネット配信もこの1年で急増したが、収益にはなかなか結びつかないし「落語は生が命。ネットでは伝わらない」とこだわる芸人や客も少なくない。

元文部科学省の官僚で、映画や落語に詳しく、落語協会の外部顧問も務める寺脇研さんは、末広亭で落語を見ていて休憩中にツイッターでこの決定を知り、いち早く賛同の声を上げた。

「寄席を止める科学的根拠はないとハッキリ言わないといけない。言わないと映画館や大劇場と一緒くたに扱われてしまう。寄席に何千人も来るわけではないし、客席で感染者も出ていない。それでもなぜ止めるのか。寄席をちゃんと調べて、ここはいけないぞと判断したのならともかく、寄席を知りもしないで、というのが理解できない」と憤る。

「寄席はあれだけの軍国主義の戦時中でも開いていた。爆弾が落ちてくる、ろくに物も食べられないという中で、寄席を止めてしまったら、我慢に我慢を強いられた国民のストレスが爆発すると恐れたのだろう。国民の安全弁として娯楽が必要だ」と話す。

演芸評論家の渡辺寧久さんは「商売は、やっている人が開けるか閉めるかを自由に決められるのが一番幸せ。寄席も、もしクラスターが発生したらたたかれるのはわかっている上での判断なのだから。開けたところで客が来るかどうかの保証はない。でも、赤字だろうが客が来なかろうが日々開ける、というのが寄席の営み。それはそれで判断としては潔いのではないか。ただ、寄席は東京、大阪などにしかないのだから、『演芸は社会生活に必要だ』と書くべきだったのではないか」と話す。

他の業種が休業や無観客開催などを余儀なくされていることについては、「皆さんがそれぞれに我慢している。一方で、『なんで自分は我慢しているのに、他は閉めているのに、なんであそこはやっているんだ』という、自粛警察的な目線もある。そこには自由な意思がない。自分たちで考えて、寄席の席亭と出演する芸人の代表者が話し合って決めたのだから、それは尊重すればいいだけのことではないか」と主張する。

中堅の落語家は、「寄席を開けてくれるのはうれしいしありがたい。芸人のほとんどは芸で生きていくことしかできない。副業を持っている人はほとんどいない。経済を止める以前に生活を止められるのだけは勘弁してほしい。別にもうけようとしているわけではなく、赤字になってもやっているわけだから。政府や都の方針には最大限従うけれど、正業を奪わないでほしい」と訴える。

「お客さんは寄席に来られるとわかるけれど、落語は厳しい節度を持ってやっている。自分の出番が終わったら楽屋からすぐ帰らなくてはいけない。感染にはみんな気を付けている。お客さんはマスクをしているし、声を出したり掛け声を上げたりなどは通常でもしない。これまで客席からは感染者が出ておらず、私たちがやってきたことは間違っていなかったと思う。寄席ではどんなふうに気を使っているのか、安心して見に来ていただきたい」と話した。

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「戦時中でも赤字でも」 緊急事態宣言下で寄席を開けるワケ