コロナ禍でゲーム業界はどう変化した?巣ごもり需要で売上アップってホント? ゲーム会社の社長3人に聞いてみた

 2020年は、日本だけでなく全世界が新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われるという、歴史に残る年となった。このコロナ禍によって日本人の健康や生活はもちろん、多くの企業の活動もかなり大きなダメージを受けている。

 その中にあっていくつかの業種は、いわゆる「巣ごもり」需要によって、ダメージどころかむしろ通常以上の利益を得ていると、世間では言われている。ゲーム業界はその代表的な業種のひとつだ。

 たしかに、ダウンロードで購入して家庭内で遊ぶことのできるゲームは、コロナ禍による外出自粛時の娯楽として高い人気を博した。その結果、「任天堂が2021年3月期の連結営業利益を、前年比27.7パーセント増の4500億円に上方修正した」といった報道もあるように、大幅な利益が発生したことも事実だろう。だが、実際にゲーム開発を行っているクリエイターの声を聞くと、そこまで活況を呈しているわけでもない、という意見が多い。

 観光業や外食産業といった、コロナ禍で特に深刻な打撃を受けた業種に比べれば、ゲーム業界はそこまで大きなダメージは受けていないかもしれない。だが一方で、他の多くの企業と同様にゲーム業界もまた、会社の業務の多くをリモートワークに切り替えたり、それに伴い開発作業の進捗が遅れたりと、これまでにない規模の変化に晒されているのも、また確かなことだ。

 そこで今回は、ゲームディベロッパーとして活躍する企業の代表取締役である3名の方々にお集まりいただいて、コロナ禍におけるゲーム業界の変化、とりわけゲーム開発現場の働き方の変化について、自由に意見を交換してもらった。その顔ぶれは、株式会社サイバーコネクトツー代表取締役の松山洋氏、株式会社トイディア代表取締役(CEO)の松田崇志氏、株式会社ビサイド代表取締役社長の南治一徳氏という、いずれも業界の第一線で人気作を生み出し続けているみなさんだ。

左から 南治一徳氏、松山洋氏、松田崇志

 座談会での対話を通じて明らかになったのは、「リモート作業」による社員間のコミュニケーションの変化が、ゲーム作りに大きな影響を与えているという事実だ。この点はおそらく、ゲーム業界だけが抱える問題ではないだろう。むしろこのコロナ禍において、日本の製造業やモノ作りの現場において、数多く見られる事象ではないだろうか。コロナ禍に見舞われた日本の企業の実情を率直に語り合うという意味で、この座談会の内容は、読者の方々にとっても非常に身近なものになっているはずだ。

 今回の座談会の模様はこの記事だけでなく、Amazon Audibleで実際の音声を聴くことができる。参加者の感情表現豊かな音声を聞くことによって、より強い印象で味わうことができるはずだ。ちなみにこの記事では文章表現の都合上、発言の整理や語順の変更といった編集を適宜、文意を変えない程度に行っている。興味のある方は、実際の音声と比較してみるのも面白いだろう。

 なお、この座談会の収録は2020年10月末に行われている。参加者の発言はその時点の情勢に基づくものであり、その後の感染状況の変化と若干のズレが生じている点をご了承いただきたい。

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本インタビューのAudible版はこちら

聞き手/TAITAI
文/伊藤誠之介
編集/実存
カメラマン/佐々木秀二


コロナ禍による開発の遅れで生じた損害は、ディベロッパー自身が被るほかない

──新型コロナウィルスの影響で、ゲーム業界は売り上げ上昇などの恩恵を受けている業界のひとつなんじゃないか、と一般的には言われていますが、実際にそういう実感はありますか?

南治氏:
 「儲かっている」という感じはないんですけど、「仕事がない」というわけではないですね。新しいお仕事も最近始まっていたり、そういう意味では「変わらない」というのが、いちばん素直な表現ですかね。

南治一徳氏

──ゲーム業界では、コロナが流行しはじめた3月から4月ごろに、立ち上がっていたプロジェクトが止まっちゃったとか、開発が進まなくなったというような話もよく聞きました。そういった影響はありましたか?

松山氏:
 ウチは売り上げ自体は正直、今までとあんまり変わってないです。売れているものはちゃんと売れているし、この時期だけギューッと上がったなという自覚はないですね。

 ただ、ウチはカナダのモントリオールにスタジオがあって。北米は感染拡大がずいぶん早かったんですよ。今年の3月からもうモントリオールは深刻化して、政府の指示で外出禁止というか出社禁止になったので、モントリオールスタジオはリモートに切り替えるしかなかったんですね。

 ウチは最初にモントリオール、4月から福岡本社、そして東京スタジオと、順番にリモートに切り替えて半年ぐらいですね。6月末までリモートで、7月からはシフト勤務で通勤ラッシュを避ける形にしました。
 ウチはいつも朝9時出勤だったんですけど、それを11時ごろにズラして、オフピークで出社してもらうやり方に切り替えて。

 開発に関していえば、半年弱、3〜4カ月ぐらいの間はとんでもなく遅れましたね。

松山洋氏

一同:
 あぁ……。

松山氏:
 結局、みんなそれぞれローカルで作業するじゃないですか。プログラマーもアーティストも、みんなバラバラに作業して、それをサーバーに「せーの」って上げるじゃないですか。そうしたら動かないわけですよ。そこでいつもはみんなで集まって「さぁ、どうする?」ってやるんですけど、まずそれができない。

 あとは家庭用ゲームの場合、SwitchとPS4とXboxと、それぞれ実機で確認しないといけないんだけど、自宅ではできないんですよ。開発機は社外に持ち出せない契約なので。だからローカルで作業して毎日データをアップしたとしても、まともに動いているかどうかは誰も確認できていないという。

松田氏:
 みんな上げるだけ上げて。

松田崇志氏

松山氏:
 これは体感ですけど、全プロジェクトでまるっと3か月ぐらいは遅れた感じですね。でも、3カ月の遅れを取り戻すには6カ月かかるんです。ほかの仕事をしながら並行して進めないといけないので。
 そうなるとですね、あくまで体感ですけど、損失は数字で言うとマイナス5億ぐらいかな……。

南治氏:
 うわー、ツラい。

──パブリッシャーさんから補填はあったんでしょうか?

松山氏:
 えーと、両方ですね。「そんなもんは払わん」っていう会社と、「コロナは誰のせいでもないよね」という会社と。

 ウチももちろん損害だし、パブリッシャーも損害なんです。なので、これはお互いに半分ずつにしませんかと。半分は補填するけど、半分は企業努力で何とかしてよと。これはまだ前向きだと思うんです。
 自分のところの会社はリモートに切り替えて、出社率を何パーセント未満にしろと言っておいて、こちらには「遅れるのはいいけど、払わないよ」と言われたら、結局どうにかするしかないわけじゃないですか。

──業界残酷物語になってきました(笑)。

松山氏:
 でも、そういう会社は多いですよ。知り合いのゲームディベロッパーも、ウチよりぜんぜん規模の小さい会社ですけど、そこもパブリッシャーから「遅れたら1円も払わないからね」と言われて。それで結局、社員50人が命がけで出社して、仕事をしてましたね。

──立場的に、お金を追加でもらう交渉をするというのもなかなか難しいですよね。それこそサイバーコネクトツーさんぐらいの規模であれば、まだ話は通じやすいかもしれないですけど。

南治氏:
 「ここまでに実装して○○円」って契約書に書いてありますからね。それをズラすのはパワーが要りますよね。

──向こうから善意で言ってくれればいいですけど、そんなことってなかなかないですよね。

南治氏:
 ウチの例で言うと、着手が遅れた案件はありますよ。緊急事態の時はリモートになっているから、「偉い人に対して新規事業のプレゼンができません」と。それでスタートが2カ月ぐらい遅れて。
 そうすると契約も後ろ倒しになってお金も出ないので、その間はなんとか……みたいな。

コアゲームの売り上げは堅調だが、カジュアルゲームの売り上げは大きく伸びた

松田氏:
 ウチぐらいの会社の規模では、国内だとほぼ変化はないですね。もともとお付き合いがあったり信頼関係ができているところに関しては、まったく影響がなかったと言っていいレベルだと思います。

 ただ逆に、さっき南治さんがおっしゃったみたいに初めてお付き合いするところで仕事が減るというのはけっこうありましたね。話の入口としては今までどおりスムーズにいくんだけども、予算を組んだり承認したりとというフェイズで、承認会議自体が先送りされたりだとか。

──なるほど。

松田氏:
 一方で、海外向けでは面白い例があって。ウチはFacebookとかのSNS上で、簡単に遊べるカジュアルゲームのラインも持っているんですけど、その中にインドのおはじきゲームがあるんですね。

(画像はYouTube「キャロム」(Nintendo Switch『世界のアソビ大全51』)より)

 基本的にはインドの人しかやらないゲームなんですけど、じつは奥深いゲーム性があって。重いゲームが作れないからこそ、どこまでオリジナルの良さを活かしてカジュアルなゲームができるかと、ウチでチャレンジして作ってみたものなんですけど……なんと、このゲームのアクティブプレイヤー数がコロナ禍以降で以前の30倍になったんです。

南治氏:
 えーっ!?

松田氏:
 30倍レベルの数字の変化って、なかなか体感することがなかったので、ウチとしてもかなり驚きましたね。

松山氏:
 カジュアルは逆に伸びたんだ。

松田氏:
 伸びたと思います。我々だけじゃなくてインドの方々もコロナで苦しんでいて、その中にはあまりお金がない層もいっぱいいて。その人たちが他人と会うことができないとなったときに、あまりお金がなければ当然、選択肢も少なくなって、無料でできるゲームに集中したというのはあったんじゃないかと。もちろん、我々なりの分析でしかないという前提のうえですが。

──カジュアルなゲームは盛り上がっているという話で言うと、『あつまれ どうぶつの森』も大ヒットしたじゃないですか。もともと人気があって勢いもあったんだけど、コロナ禍という状況になって、より拍車がかかったという印象はありますよね。

松山氏:
 ダウンロード販売の比率が上がったという話は聞きましたね。

──そのへんって、実際どうなんでしょう? コアゲームよりも伸び率が高かったんでしょうか。

松山氏:
 そうだと思いますよ。我々が作っているものって嗜好品じゃないですか。「コロナで家にいるから『ドラゴンボール』を買おう」じゃなくて、『ドラゴンボール』が好きな人は最初から買っているし、買おうと思っていた人たちが順番に買っているだけなので。
 ウチが作るモノは特にそういうタイプなので、そんなに大きくは変わらず、どれも順調に売れている状態でしたね。

(画像はバトル | ドラゴンボール Z KAKAROT | バンダイナムコエンターテインメント公式サイトより)

松田氏:
 『あつまれ どうぶつの森』に関しては、コロナで急に世界が変わってしまって、「人とのコミュニケーションを手っ取り早く何かで代替したい」という、ものすごく神がかったタイミングで出てきたのが大きいですよね。
 『どうぶつの森』を今までは買わなかったけど、今回のこのコロナをきっかけに、コミュニケーションツールが欲しいから買ったという人は多かったんじゃないかと思います。

──それは周りを見ていても実際に感じますね。ふだんゲームをやらないウチの妹も、なぜか『あつまれ どうぶつの森』を欲しがって。でも、買おうとしても買えなくて。

南治氏:
 そもそもSwitchが品薄になりましたからね。

──『あつ森』の流行は、昔の『脳トレ』みたいな空気がありましたよね。ふだんゲームにまったく関心のない人がやろうとする、あの空気はなかなか珍しいなと思いました。

(画像はあつまれ どうぶつの森 : 気ままに 島DAYS | Nintendo Switch | 任天堂より)

リモートワークにしたことで、「ムダ話」が無くなってしまった

──リモートワークになって気づいたことはありますか?たとえば、対面で話すことってけっこう情報量があるじゃないですか。それが、それこそZoomなどのビデオ会議であってもいろんな情報が削げ落ちて、意思疎通が難しくなっていると思うんですよ。

松山氏:
 いっぱいありますよ。もともとウチは福岡・東京・モントリオールと拠点が離れているので、ビデオ会議とかでコミュニケーションを取りながら作っていくのが基本だったんです。だから、意外とみんな在宅のリモートでやることに何の頓着もなくやれると思っていたんですけど……。
 最初のころは「みんなタフだな。ちゃんとスイッチを切り替えてやってくれてるじゃん」と思っていたんですけど、1週間、2週間と経ってみるとどんどん遅れが出てきて。

 やっぱりウチは会社組織で、スタジオワークだったんですね。オフラインでスタジオに一緒にいるからこそ得られる気づきって、いっぱいあって。リモートによるコミュニケーションロスが大きすぎたので、ウチは結局シフト勤務に切り替えたんです。
 じつは会社でこうして他人といるときって、けっこうムダ話をするじゃないですか。それこそミーティングが始まる前に、よくわかんない前説が始まったりするじゃないですか。でもそれにはやっぱり、意味があるんですよ。

松田氏:
 そうですよね。

松山氏:
 しかも、ミーティングをリモートでやると、ビックリするほど仕事の話だけして終わることが多くて
 
 これはウチのスタッフの話なんですけど、家で晩ご飯を食べる時に、会話が無くなっちゃったらしいんです。今までは会社に来て、朝から晩まで仕事をしているつもりが、じつは雑談していて。そして夜、家に帰って家族と晩ご飯を食べる時に「今日ね、こんなことあったんだよ」と話していたと。

 なので、ウチではビデオ会議で「仕事の話だけするのは禁止」にしました。始まる前でもいいし、終わった後でもいいから、5分でも10分でもいいから、雑談をしよう、ムダ話をしようと。
 「今日お昼は何を食った?」でもいいし、「テレビ何見た?」でも構わないから、とにかくもっとムダ話をしてと。「そうじゃないと、お前らおかしくなるぞ!」って(笑)。

松田氏:
 でも、それは絶対にありますよね。

──それはすごく分かります。リモートワークになって仕事が早くなったという人を、僕は聞いたことがないんですよ。みんな、なんらか遅れるようになっていて。

松山氏:
 やっぱりそうなんだ。

松田氏:
 プロジェクトとして不特定多数の噛み合いが上手くいかなくて時間がかかったというのじゃなくて、個人個人のレベルで仕事が上手く進められなくなったということですか?

──全体ですね。とくにディレクターやプロデューサーの方に多いんですが、全体的に1〜2カ月ほど遅れているそうなんです。

 ただ、その内訳がまだ言語化できていなくて。さっき松山さんがおっしゃったことがまさにその一例だと思うんですけど、その内訳というか、「これってこうだったんじゃないか」っていう話が出ると、すごく有意義なんじゃないかと思うんです。


開発の「ライブ感」を維持するために、リモートで雑談しながら作業する時間を設けた

──さっきの松山さんの話を踏まえて、松田さんや南治さんは何かありますか?

南治氏:
 さっき言ったように、ウチは比較的上手くいったほうだと思うんですけど、それでも引っかかっているところはありました。

 とくに、「新人の教育」「ツールの導入コスト」が問題としてすごく大きいですね。対面なら「右のこのボタンを押して」と簡単に教えられるのが、リモートだとなかなか面倒くさいし、何かを新しく導入するというのがとにかく難しくなって

 それで、ウチは「入って2年目までの人は通勤、それ以降の人は自分で選びなさい」というルールにしました。
 2年目までにしたのは、1年目だけだと結局教える人がいなくて、偉い人が行かなきゃいけなくなっちゃうからですね。だから2年目の人は、1年目の人をちゃんと教えなさいと。教えるほうも、新人が会社にいると分かっていれば、行けば教えられるのでラクなんですよね。

 新人からいきなりリモートは大変だったなぁというのがあったので、そういうルールを決めた感じです。松田さんのところは、リモートはどうされているんですか?

松田氏:
 ウチも松山さんのところとちょっと近いところがありますね。ウチは台湾に支社があって、そこが3年目ぐらいなんです。もしこのコロナ禍がもう1年早かったら、台湾のチームが独立して動けるレベルになかったので、かなりヤバかったんじゃないかと思いますね。でも、奇跡的になんとかなるレベルに育っていたので、まぁ良かったかなというところがあって。

 もうひとつ、コロナ禍のなかで自分がゲームを作っていて、すごく強烈に感じたことがあって。これは僕の持論なんですけど、ディレクターとかプロデューサーって、ライブ型が得意な人レコーディング型が得意な人がいると思うんですね。

──ライブ型とレコーディング型ですか。

松田氏:
 それで言うと、僕は完全にライブ型の人間なんですよ。プロジェクトを新規で立ち上げるとき、ウチの会社の場合はなによりも速度を優先するんです。
 だから細かいところが決まっていなかったり、書類ができていなかったりしても、とりあえず走らせてみて。速攻でビルドしてモックアップを作って、それで実際に触ってみて、ボタンを押した瞬間の手応えやフィードバックとかも含めて、「これがもともと自分たちが作りたかったものなのかどうか」を早め早めに確かめていく

 このライブ感や速度感がトイディアの作り方であり、他の会社と競合するための武器と言えるものだったと思っているんです。でも、リモートワークになったら、このやり方ができなくなってしまって。コロナが始まってから最初の半年は、南治さんがおっしゃったようにシステム作りや新しいソフトウェアの導入とかも含めて、すごく苦しんだところでしたね。

──実際に触ってみて、みたいな部分はやっぱりオフラインのほうが圧倒的に情報量は多いですもんね。

松田氏:
 そうなんです。とはいえ、レコーディング型に切り替えようと思っても、すごく丁寧な仕様書を作って「あとは作業だけをやればいい」みたいなレベルには達せていなくて。
 そうすると、自分たちが出したいゲームの速度感が失われてしまうので、それはやめましょうと。ウチがウチらしくあるためには、やっぱりリアルでライブ感をもってやるしかない。ということで、今も週に1回から2回は会社に集まりましょうとなっていますね。

 毎週水曜日は「自分たちが社内でチェックする」と決めているんですが、その前日には必ずビデオもオンで、マイクもオンで、独り言もブツブツ言いながら、リモートで作業する4時間を設定したんです。
 その作業時間は必ず、独り言でもいいし、誰かに向けてのメッセージでも構わないから、雑談コミュニケーションも込みでやる。これの効果は、けっこうデカかったですね。

──Zoomとかのビデオ会議って、どうしても1対1になりがちじゃないですか。聴いている人が30人いても、しゃべる人は1人か2人になってしまうので。そのへんってどうしているんですか?

松山氏:
 Zoomとかだと10人参加していようが20人参加していようが、しゃべってるのはいいとこ2、3人だとよく言われるし、それはそのとおりなんですけど、これってじつはリアルな会議でも同じことが起きていて。ほとんどの人間が聴いているだけで、10人の会議でもしゃべってるのは2、3人なんですよ。

 居酒屋での飲み会を想像してもらうと分かりやすいと思うんですけど、20人でやっている飲み会でも、実際は4グループぐらいに分かれているんですよ。それで2時間飲んでいても、自分たちのテーブルのメンバーとは話をしているけど、他のテーブルで何を話していたかは分からないじゃないですか。

 Zoomとかでオンライン飲み会を始めて気づいたんですけど、参加している20人全員が同じ話を聞いているんですよ(笑)。これは逆に、リアルな飲み会では起こり得ない。
 それでいうと「みんな同じ情報を共有できている」というのは、ある意味良いことではあるかなとは思いますね。結局しゃべるヤツはしゃべるし、しゃべらないヤツはしゃべらないんですよ。

 ウチでリモートをやっていたときは、毎週金曜日は「オンライン飲みトーク」を開催していました。もともと毎月、スタッフと飲みに行くというのを定期的にやっていたんですけど、リアルでできなくなったから、せめてオンラインでやるぞと。オレが毎週金曜日のこの時間に部屋を立ち上げるから、ここに入ってこいと。
 「誰ひとり来なかったら、オレがひとりで飲んで潰れることになるから、放っておくなよ、オレを」という話をしたら(笑)、必ず誰かは来てくれましたね。なかには勇気を持って飛び込んできた新人もいて。「これを機会に、社長と話そうと思って来ました」って言うから、「じゃあそいつ中心に話をしようぜ」って話をしたり、というのをやりましたね。

松田氏:
 新人からしたら、逆にチャンスじゃないですか。そんなアピールポイント、なかなかないですよね。

南治氏:
 ウチもオンライン飲み会は2、3回やりましたけど、その後はさっぱりですね。さっき話に出たように、ちょっと多く集まるとぜんぜん話さない人が出てしまうし、それはそれで良くない気がして、結局止めちゃったんです。
 「ブレイクアウトセッション」でしたっけ? 最近Zoomで部屋を分けて作れて、ランダムで割り振れる機能がついたんですよね。それでまたやり直したら面白いのかな、という気はしてますね。

松田氏:
 ランダムは面白そうですね。飲み会の席替えみたいな感じで。

「コロナ以後」の社員採用や新人教育は、どのように行えばよいのか

松山氏:
 ちなみにウチは、コロナ以後で採用が上手くいってます。

 あるゲームディベロッパーから「松山さん、採用はどうしてます?」と聞かれて、「ウチはバリバリやってるよ」と。普通に講演もやってるし、面接もやってるし、採用も決めてるしという話をしたら、「オンラインでやるしかないし、それは分かるんですけど、最終面接ってどうしてます?」と。
 「オンラインだよ、それは」「えっ!? 会ったこともない人間に内定を出せます?」って言われて。実際に内定出してるし、なんなら海外のスタッフの採用もオンライン面接でビザの手続きまでやって、日本に来てようやく「はじめまして」だけど、それでやってるよと答えたら、「Zoomとかだと顔しか分からないし、そいつが背が高いのか低いのかも分かんないじゃないですか!」って。背が高かったら何なの? 仕事のクオリティが高いの? 低いの?

 じつは、大手企業でもコロナになってから最終面接でストップしていたところが多いらしくて。だからけっこうみんなまだね、「直接会わないとダメでしょ」みたいな感覚が残っているんですよね。
 ウチは採用関係を全部、即座にオンラインに切り替えたんですけど、25年やってきて過去いちばん上手くいってますね。

南治氏:
 採用の話だと、ウチは今年そんなに上手くいってなかったんですよ。「なかった」というのは、ここに来てわりと応募が増えてきているので。
 ウチは今までドブ板活動じゃないですけど、専門学校さんや大学さんを回らせてもらって講演をして、そこで作品を見させてもらって。「君はここをもうちょっと直してから応募しなさい」とか、いろいろ指導をがんばって、それでまた来た子と話して、という感じでウチに応募してもらっていました。そうやって精度を上げていって、はい面接、みたいな感じで。

 でも、コロナ後はそれがまったくできなくなって。講演なんかはもちろんオンラインなんですけど、オンラインでポートフォリオを見せてくれる方がほとんどいないんですよ。だから、今までとはかなり作戦を変えないといけなかったのが、大変でしたね。

 ただ一方で、オンライン面接はずっと続けていて。サイバーさんのところもそうでしたけど、ゲーム業界でオンライン面接は比較的多い方だと思ます。ただ、今までは遠い人だけでしたね。地方の人に面接のためだけに来てもらうのも申し訳ないので。でも、今はもう全部オンラインですね。面接官のほうもオンラインになって。

松田氏:
 新しい子たちが採用されて入ってきたときには、先ほどおっしゃっていた2年間ルールで、フェイス・トゥ・フェイスでしっかりと教えてもらえるということですか?

南治氏:
 そうですね。「会社に来てください、先輩が教えます。自分たちもたまに来ます」っていう。

松山氏:
 ウチは専門学校のHALさんのインターン生を毎年預かっていて、その関係で聞いた話なんですけど、今年はざっくり8割ぐらいの学生がインターンシップに参加できていないんですよ。
 コロナの影響で、大手のゲーム企業が出社率を引き下げているじゃないですか。だからインターン生を預かっても、指導担当がいなくて。それで、「あなたはここね」と企業側の受け入れが決まっていたんだけど、軒並みキャンセルに。そこから自分で行動して受け入れてくれる企業を探した学生もいるらしいんですけど、そういうのは少ないそうで。結局、今年は80パーセントぐらいの学生が、インターンシップにも行けないまんま、学校にただいる状態だと言ってました。

南治氏:
 大変ですね、そういう数字で聞かされると。

松田氏:
 学生の側からしたら、そういう埒外(らちがい)の努力というか、自分の情熱とパッションで走りきったときに、受け止めてくれる会社がちゃんとあると心強いですよね。サイバーさんの場合は、ちゃんと受け止めてくれる気がするんですけど。

松山氏:
 実際、ウチはインターンのために出社していますからね。けど、さすがに人がいないところに「来てください」というのはできないのも事実だし。それはもう、それぞれの会社さんの状況次第なのかなと。

仕事上の問題に気づく「違和感」を、リモートワークの状況下でどうやって感じ取るか

──さっき「ムダ話や雑談ってめちゃくちゃ大事だよね」という話でみんな一致した一方で、「面談はオンラインでもいいじゃん」という話もあって。じゃあ結局、コミュニケーションには何が大事で、何が大事じゃないのかということを、もうちょっと深く掘れると思うんです。

 オンラインで代替できないものって、もうちょっとほかに具体例があれば聞いてみたいなと思うんですけど、何か思い当たるものってありますか?

南治氏:
 それで言うと、オンラインだと「人がプレイしている様子」は分かりにくいですね。オフィスにいた時は、プログラマーが「できた」と言ったら、そこに行ってゲームを操作して、あーだこーだ言うわけですよ。プログラマー側としても、人が操作しているのを画面で見て、フィードバックを受けたりというのがあると思うんです。
 今はビルドが自動的に配られはするんですけど、それをみんなが家でやって「よいしょ」って上げたりするので。アーティストが細かく動画を上げたりはしますけど、でも人が実際にプレイするのを見て、「ここはたしかに分かりにくかった」とか確認するのは、分かりにくいのかなと。

南治氏:
 そうですね。

松田氏:
 ウチの場合だけかもしれないですが、リモートだと「効率化したい、個の作業に戻りたい」という力が強まっている気がするんです。だから、引き留める理由がなければ、ムダな話はせずに、ふぁーっと終わっていこうとするんですよ。
 なんだけど、問題を今すぐ解決しなくちゃいけないディレクターなどの立場だと、観察して問題はどこにあるのかという違和感を収集していく必要があるんです。その物理的な時間が、オンラインではなかなか確保しきれないというか。だから、現場で起こった問題がけっこう放置されがちだなとは思っていて。

──これは元スクウェア・エニックス社長の #和田洋一 さんが言っていたことですけど、オンライン化でいろんなコミュニケーションの在り方が変わると。たとえば、社長室に誰か部下を呼びつけて「どうなってるんだ」という話をするとして、これって呼ばれた側はものすごく怖いし、危機感を覚えるわけじゃないですか。社長というか上長側の「どうなってるんだ」という必死感も含めて、身に染みてそれを体感する。だけど、これをオンラインでやったら「おそらくその効果は消え失せるだろう」と。

 こんなふうに、同じ30分のやり取りでも、オンラインとオフラインで絶対的な差が生まれる。そういうものがもっといろんなレイヤーや場所で起きているんだろうな、という話を先日していたんです。何かそういうものってありますか?

松山氏:
 そういうのもあると思うんですけど、もうちょっと現場的な話をすると、人間の視界って、じつはものすごくいろんな情報をキャッチしているんですね。

 極論を言うと、毎日会社に来るじゃないですか。会社に来て、いつもそこに座っているはずの人間が3日休んでいると、心配するんですよ。でもこれって、オンラインだとバレにくいんですよ。分かんないんです。
 で、4日目に出社してきた時に「大丈夫? どうしたの?」「じつは家族の看病で」「そんなことになってたの!」っていう、これが人間特有の心配じゃないですか。お互いがお互いを気にかけて、心配してあげる/心配してもらう。これがすごく大事なことだし。もっと言うと「顔色悪いな」とか「最近顔が赤いよ」とか……それはオレか(笑)。そういうのはオンラインだと「髪切った?」というのすら、イマイチ分かんなかったりするので。

 あとは、最近はもういろんなハラスメントがありますけど、リモートでテレビ会議をやっていると、カメラをOFFってる女子が多いわけじゃないですか。

南治氏:
 あぁ、はい。

松山氏:
 そういう時に「お前、点けろ!」っていう人もいるじゃないですか。……私は言わないですよ、話を聞いていてくれさえすれば、それでいいんですけど。あとは、外で私がやり取りしている漫画家さんとかの多くが、そういうのを嫌うんですよ。絵で仕事をしている人は自分の顔でどうこう言われたくないので、基本的にOFFなので、私は気にしないんですけど。
 でも、ウチの中間管理職のメンバーの何人かは「カメラ、出せ」とか言うわけですよ。けど、それは強制するものではないじゃないですか。ましてや女子ですから。これは他所の会社でも聞きましたけど、絶対ONにしないんですよ。なぜなら朝から晩までずっとパジャマだから(笑)。

 仕事はしてるんですよ。仕事はしてるし、歯も磨くんですけど、着替えるのがとにかく面倒くさいらしくって。それで一瞬カメラに映った時に、周りの人間から「それはシャツ?」ってツッコミが入っても「シャツです」と言い張ったらしいんですけど、明らかにパジャマだったっていう(笑)。

南治氏:
 ウチはカメラのON/OFFは強制しないですけど、「クライアントさんとのミーティングはカメラをONにしようね」というのは言ってます。やっぱり表情で伝わりやすいとか、そういうところもあるので、そこで線を引いた感じですね。

松田氏:
 大事なのはやっぱり、信頼関係ベースがどのぐらいあるかだと思うんですよね。やっぱり一緒に働いた経験が何年かあったりとか、プロジェクトを1本、困難を一緒に乗り切った経験があるメンバーなんて、なんでもいいと思うんですよ。カメラがOFFでもいいと思うんですけど。いちばん苦労しなきゃいけないし、私も苦労しているのが、これから入ってくる社員さんとか、入ってきたばかりの社員さんとかで。

南治氏:
 本当にそうですね。

松田氏:
 2社もぜんぜん違うと思いますけど、それぞれの文化だったりとか、企業のカルチャーというものを理解してもらった上で、才能を発揮してもらわないともったいないと思っているので。それができていない人間に関しては、どういうふうにしていくのがいいのかみたいなことは、すごく悩みますね。

南治氏:
 悩みますよねぇ。

松田氏:
 だからウチの場合には、カメラもONにします。表情から読み取ってほしいものがあるし。超能力者の話じゃないですけど、五感の情報のうち何か1個が遮られたら戦えない、とかあるじゃないですか(笑)。だから視覚情報もやっぱり、相手にこちらを理解してもらうためのヒントになるかもと思うと、信頼関係のまだない人とこれから作っていこうという場合には、全部カメラもONだし、みたいな感じにはしますね。

松山氏:
 乙女座(バルゴ)のシャカと戦った時のフェニックス一輝の話ですね。一個ずつ感覚を封じられていったヤツ。

(画像はキャラクター詳細|MUSEUM|聖闘士星矢より)

松田氏:
 新人はそれをやられたら死にますね(笑)。


コロナ禍の状況だからこそ、多くの人々から注目を集めるゲームもある

──さっきの松山さんや松田さんの話みたいに、これまでやってきた雑談だったり、顔を合わせることだったりを、できるだけリモートで再現するためにやっていることってありますか?

松山氏:
 私は毎週金曜日に勝手に飲み会をやってましたけど、それとは別にスタッフが自発的にやり始めたのは、「人狼」とか『Project Winter』【※】とか、みんなでできる遊びですね。

※『Project Winter』……Other Ocean Interactiveが2019年にSteamでリリースした、マルチプレイヤー・サバイバルアクションゲーム。雪山で遭難した最大8人のサバイバーが脱出を目指すが、そのうち1〜2名が密かにトレイター(裏切り者)となっており、サバイバーは誰か1人でも脱出に成功すれば勝利、トレイターはサバイバーを全滅させれば勝利となる。
(画像はSteam:Project Winterより)

松田氏:
 雪山のヤツですね。

松山氏:
 「人狼」ゲームでオンラインの画面から、なんとか表情を読み取ろうとするのは、めちゃめちゃ面白かったですね。リアルでやってるのとはまたちょっと違って、回線状況が悪くてガビガビの解像度の人もいるわけですよ。「こいつワザとちゃうか?」っていうね(笑)。

南治氏:
 回線状況も戦略に含まれるんですね(笑)。

松山氏:
 そうそう、それは面白かったですね。あと、もうひとつ面白かったのが『チックタック』【※】というアプリゲームなんですけど。
 これを人から教えてもらって、感心したんですよ。せっかくだから電ファミで紹介してほしいなと思って。

※『チックタック』……Other Tales InteractiveがiOS/Android/Switch/Steamで配信している協力型脱出アドベンチャーゲームで、正式タイトルは『チックタック:二人のための物語』。日本語版はコロナ禍以前の2019年12月にリリースされている。
(画像は‎「Tick Tock: A Tale for Two」をApp Storeでより)

 4章ぐらいですぐ終わる普通のアドベンチャーゲームなんですけど、ゲームを始める時に、「プレイヤー1として始める」か「プレイヤー2として始める」かを選ぶんです。プレイヤー1とプレイヤー2はそれぞれ同じゲームを遊んでいるんだけど、表示される画面が違うんですよ。

 今のご時世だから、LINE通話だろうとなんだろうと、離れた場所にいても会話はできるじゃないですか。プレイヤー1とプレイヤー2は、離れた場所にいて同じゲームをインストールしているんだけど、会話だけで情報を与えあいながら、お互いに協力してクリアしていくんです。

南治氏:
 それはイイですね。

松山氏:
 さらに「スゴイな!」って感心したのは、アプリ内にオンライン機能がないことなんです。
 普通ウチらゲームクリエイターは、そういうゲームを作ろうぜとなったら、アプリの中にオンライン機能を入れようしますよね。だから工数が増大化するし、デバッグが終わんないんですよ。
 でもこれは「今のこの世の中、通信機器はみんな持ってるでしょ」と。だからただのオフラインのゲームなんですよ。それをお互いに協力しながら、電話をつなぎっぱなしで遊ぶんです。

 気をつけなきゃいけないのは、Zoomとかで「だから松田さん、こうですって!」みたいに画面を見せたらおしまいなんですよ。それは答えを見せてるのと一緒ですから。言葉だけでそれを伝えるから、難易度が上がって面白いんです。

松田氏:
 なるほど、なるほど。

南治氏:
 ちょっとやってみよう。

──オンライン機能はないけど、マルチプレイゲームなんですね。

松山氏:
 そう。これはめちゃくちゃ頭がいいなと思って。オレらは絶対に、アプリの中にそれを入れようとするじゃん。逆転の発想だなと思って。

松田氏:
 そもそもコミュニケーションツールであったスマホが最高のゲーム機になっているという順番で考えると、コミュニケーション手段はもうみんな持っているわけだから。もっと自由な発想をするべきだ、となるわけですね。いい発想だ、悔しい(笑)。

松田氏:
 それはたしかにニーズのひとつとしてあるかもしれないですね。さっきの松山さんの「人狼」のお話でもそうですけど、情報が限られている中で工夫しなきゃいけない。上手く質問を作って相手から引き出さなきゃいけない。その引き出し能力みたいなものがコミュニケーションツールとして問われたり、ゲームのジャンルとして求められたりする。

 今まで発掘されていなかった需要がここで生まれてきたのは面白いし、ゲームクリエイターとしてはそこにフィットしたものをタイミング良く出せれば、もしかしたら覇権が取れるのかもしれないですね。

オンライン会議の敷居が下がったからこそ、オンラインで済ませられることが見えてきた

──いまの松山さんのお話のように、コロナ禍の状況になって、あるいはリモートになって良かったことって、おふたりは何かありますか?

南治氏:
 まず言えるのは、クライアントさんとのミーティングで移動時間がゼロになったことですね。社内はともかく、クライアントさんとのミーティングに関しては「全部オンラインで良かったんだ」と。
 雑談もたまにはしてましたけど、基本的には進捗の報告や仕様の話がメインだったので、オンラインで事足りたんです。やっぱり移動時間がなくなったというのは、すごく大きいですね。とはいっても、代わりに会議がガーッと入るようになっちゃってマイナスの一面もあるんですけど(笑)。

 あとオンラインミーティングの敷居がすごく下がったので、細かい仕様の打ち合わせや共有を、気軽にクライアントさんとできるようになりましたね。頻繁になっちゃったのは、良くも悪くもなんですけど。

松田氏:
 ウチで言うと、「中間層がすごく育った」というのが良かったなと。

 ウチみたいに小さいスタートアップの会社だと、社長がビジョンを語って突き進んでみたいな感じで、牽引していくことが結果的に多くなりがちだと思うんです。
 でも、会社を成長させていくというシークエンスで言うと、上の人間からすると「下の人間がもうちょっと育ってほしいな」とか、自分が新しいことをやるためにも、ミドル層の人間に委譲していきたいというニーズがあって。

 でも、なんだかんだ言って自分が引っ張っていくほうが速いから、今までなかなか委譲するきっかけがなかったんです。それがコロナという外圧で、対応しないといけない仕事も増えたことで、強制的に「君に任せたい」というか、任せざるを得なくなったんです。最初はちょっと上手くいかない部分もありましたけど、だんだんと周りからも認められ始めて。

 今までだと「社長がガンガンしゃべっているから自分は発言することはないな」とか、「社長が先回りしてケアできてれば言うこともないな」と思ってスッと引いていた人たちが、「社長が出ないんだったら自分が行ったほうが効率がいいよね、やらざるを得ないよね」というふうに立ち回ってくれるようになって。

 会議の仕切りだとかミーティングの調整だとか、PM(プロジェクトマネージャー)的な側面をクリエイターが持ち始めたという意味でいうと、ウチはすごくミドル層が成長したというのを実感してますね。

松山氏:
 それはスゴイね。

南治氏:
 いい話ですね。

松田氏:
 「最終的にケツを持つのはオレだから」という話を通しておけば、みんなもチャレンジしやすいし。

──松山さんは、何かあります?

 あとは今まで定例でやっていた会議も全部潰したんですよ。その代わり、毎日起きるトラブルに瞬時に判断できるよう、私を含めた4人のメンバーが毎朝会議をする役員会を設けました。で、出欠確認や社内で起きている問題点を必ずその場で話し合って、その場で私が判断して、あとはすぐ解決に向けて行動っていう。
 ルーティンで朝礼をやっていたけど、じつは必要なのはこれだけで良くて、みんなで集まることの美徳を考え直すいいきっかけになったな、というのは思っています。

 けど一方でね、ウチのスタッフらしさというか、「みんなで集まれなくなってちょっと寂しいです」とか、「週に1回、社長がワケの分からないことを言うじゃないですか」という声もあって。
 いつもだったら、朝礼で「『鬼滅の刃』の劇場版のあそこの演出がどうだ」みたいな話をしてたんです。「どうしてもお前らに言っときたいことがある。この作品のこっちを良しとするなら、こっちは無しだ」とか、そんな話をしちゃうんですよ、社内だから。
 だから、ウチのスタッフがたぶん今いちばん必死に追いかけてるのって、私のSNSだと思うんですよ。だって、物理的に会ってないですから。なので一生懸命SNSの情報だとか、こういうふうにメディアに出た時の情報を、昔以上に追いかけてくれるようになって。「社長はこんなことを考えているんだ」というのをSNSで拾うようになったのは、現代的でいいのかな、というのと。

 こんなふうに、必要なこととそうじゃないことが、ウチの社内でもちょっとずつ変化するきっかけになったなとは思ってますね。

松田氏:
 松山さんは業界でも特異なほど、いろんなことをやってらっしゃいますよね。そういういろんな形で社員にビジョンを語るので、サイバーコネクトツーの社員として求められていることは何かというのを、社員はすぐに得られるじゃないですか。その情報を発信し続けるということはすごく重要だなと思います。

アフターコロナであっても「時代の流れに合ったものを作る」という意味では変わらない

──「世界中の人が同一の体験をしている」という意味で言えば、このコロナ禍ってスゴイ体験じゃないですか。下世話な話なんですけど、ウィズ・コロナ、あるいはアフター・コロナにおいて、この体験や感覚をエンタメに落とし込むにはどういう形があるんだろうか、というのはクリエイティブなものに携わる人にとってひとつのテーマになると思うんです。

 たとえば『シン・ゴジラ』が、東日本大震災を想起させていたように。あれは日本人が見るとすごく感情移入できるんだけど、海外の人はなかなかピンと来ないみたいで。そういう意味でいうと、今回のコロナ禍って、世界中の人が「あぁ」と思える何かがきっとあるはずで。

 コロナが収まることはまだ当分ないだろうし、コロナを体験した上で生まれるものとか起こることが、これから世界中で出てくるでしょう。それはゲーム業界でも同様に起こりうると思うんですが、今後、このコロナ禍を踏まえて、ゲーム業界やゲーム会社はどうなっていくんでしょうか。

松山氏:
 コロナに限らず世の中の流れって、社会情勢も含めて、時代のうねりみたいなものがあるわけじゃないですか。『鬼滅の刃』も、コロナでみんなが不安になっているから、ああいうものが支持されているわけで。

(画像は鬼滅の刃 23 (ジャンプコミックスDIGITAL) | 吾峠呼世晴 | Kindleストア | Amazonより)

 ただ、特に家庭用ゲームだと、今企画しているものが世の中に出るのは3年後になりますから、我々はほんのちょっぴりだけ先を見据えて、「少なくともこれじゃあ通用しない」ではないものを、方向を見定めて作っていくしかないので。5年後、10年後と言われたら、まったく分かんないですけど。1年から3年後だったら「少なくともこれはもう無理だよね」というのは分かるわけですから。

 『ONE PIECE』のモンキー・D・ルフィは最近、“見聞色の覇気”っていう、ちょっとだけ未来が見える能力を身につけ始めていますけど、ゲームクリエイターの多くが見聞色の覇気を使えるじゃないですか(笑)。
 そんな先は無理ですけど、1年から3年先ぐらいまで見える能力は、みんな持っていると思うので。たぶんこれからも見聞色の覇気を使いながら、時代に合わせた「オモロい」を作っていくことになるんじゃないかなと思いますけどね。

──なるほど、わかりやすい言い方ですね(笑)。

南治氏:
 自分が思ったのは、そこそこ人は動いているんですけど、外に出る人が減ってきていることですね。スマホは持ち歩けて、外でも遊べるのが良かったんですけど、家にいるんだったらスマホはもっと小さくていいし、むしろちゃんとしたゲーム機のほうがいいよね、というふうになるんじゃないかと。「外にいて、時間を潰さなきゃいけない」というシチュエーションも減ると思いますし。

 スマホゲームもだいぶ調子が良かったんですけど、これを機に家庭用ゲーム機への揺り戻しががあるんじゃないかなぁと。それはそれで面白そうかなぁと思っています。このへんはちょっと、希望だったりもしますけどね。松田さんはどうですか?

松田氏:
 これ、まとめ難しいよなぁ(笑)。なんて壮大な話を持ってきてくれたんだろう。

松山氏:
 言いたいことを言っとけばいいんですよ、なんでも(笑)。

松田氏:
 まぁでもこうしてお話しして、いろいろと自分の中で整理されてきたことはたくさんありますね。

 結局、コロナの前だろうと後だろうと、世間のニーズや流行りを考慮した上で、「これは作るべき価値があるものだ」というものに人生を賭けるのがゲーム作りだと思っているので。コロナの状況になったからといって、自分の気持ちを殺してまで作るようなことは、ゲームの業界においてはないと思います。

 これがたとえば外食産業みたいに、コロナによってそもそも今日の商売すら成り立たない、みたいなことになってしまうと、外部からの圧力によって信念を曲げなきゃいけないとか、そもそもこの商売をやっているアイデンティティを否定して、違うことをやらなきゃいけなくなってしまうのかもしれないですけど。
 冒頭で平さんがおっしゃったみたいに、ゲームは他の業態に比べれば、比較的ですけど、コロナによってダメになったビジネスモデルではないと思います。結局、市場を見て、世界を見て、自分たちのやりたい気持ちとか想いを乗せて、ゲームを作って選んでいくということは変わらなくて。

 自分の会社としてはこういうふうにしていきたい。そのための手段として、コロナ禍の世界において市場に合ったものを作るために、ウチの会社としてはこうしていきます、これが大事だと思います、というのを主張していく。それだけのことなので、手段はトライ&エラーでいいのかなと思っていて。「これじゃなきゃいけない」もないし、「これが正解」もまったくない状態でしょうし、それが生まれるかどうかはちょっと分からないので。ウチのメンバーが楽しく、信念を曲げずにゲームを作っていけるような、社内の文化だったりやり方を生み出していければいいな、と思っているだけですね。

──今日集まっていただいた方はみなさん、それぞれの会社の社長でもあるので、この記事なり音声が公開されることで、それぞれの社員のみなさんへのメッセージにもなって、お三方の役に立てればいいなというところで、この座談会を終えたいと思います。本日はお疲れさまでした。(了)


 新型コロナウイルスの影響は、単に健康の問題だけではなく、我々自身の生活様式や、産業の構造自体を変えざるを得ないところまで来ている。この原稿を執筆している時点では今なお感染の収束は見えないが、たとえ大規模な感染が収束したとしても、その影響は深く、長く続いていくことだろう。ひょっとしたら今後の日本人全体の生活や意識を、大きく変えてしまうほどに。

 今回の座談会は、企業のトップとしてコロナ禍に直面した人々が、それに対してどう対処したか、そして今なお試行錯誤を続けているかの記録だと言えるだろう。
 その意味で、この記事が単にゲーム業界の内情を伝えるものであるだけでなく、読者のみなさんがコロナ禍の、そしてコロナ以後の世界を生きていく上で、ここから何らかの役に立つ知見や考え方のヒントを得ることができたなら、編集部としては嬉しく思います。

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